人間誰しも我が身がかわいい。それが行き過ぎて他人を殺してしまう人もいる。この話は、人が人を殺すという状況に、不幸にもとらわれてしまった何組かの親と子のつながりのお話。
弟が薦めてきた本。一気に読めるエンターテイメントとのことなので、夏頃からだらだら読んでいてちょっと飽き気味の村上春樹の「世界の終わりと(略)」は、とりあえず脇において、図書館で借りてきた。
というわけで、一気読みしてしまった。
傷害致死で2年服役して仮出獄した青年が、刑務官に誘われて、とある死刑囚の冤罪を晴らすため、10年前の事件について二人だけの捜査をしていくという筋書きになっている。謎解きあり、刑事行政の内側の話あり、確かにエンターテイメントだ。
その分、特に終盤は怪しい人が目まぐるしく入れ替わり、主人公の隠していた苦悩とかジレンマが、そっちのけのまま話が進んでいってる気もする。中盤なんかは、刑務官の経歴が語られて、刑罰についての自分なりの理想と、それに反する現実の間に苦しむ様子が描かれて、まさに話の渦中にいるという感じがするんだけどね。
先日初めての裁判員候補者への通知が行われたとのこと。この小説にあるように、刑罰を決めるのも、執行するのも人間。結局人間が人間を殺すということにいささかの間違いはない。判決に文句を言いつつも本音では結局はお上に任せておきたい多くの人たちが、この死刑を含む刑罰に向き合うことになる。
きっとこの話の中で語られているようなことを感じることになるんだろうなあと思う。仕事で辞退できるかーとか、そんな話題にしかなっていない気がするけど、乾いた日本人には、きっと人間について発見することがあるのではなかろうか。それは悪いことではないと思う。