「自分がどうしてここに来たのかも、僕にはよくわからない」と僕は言った。
じっと天井を見ていると、そこから振りかかってくる黄色い電灯の光の粒子が膨らんだり縮んだりしているように見えた。恐らく僕の傷つけられた瞳のせいだろう。僕の目は何かとくべつなものを見るために、門番の手によって作りかえられてしまったのだ。壁にかかった古い大きな柱時計がゆっくりと無言のうちに時を刻んでいた。
【概要】
街についた最初の日、僕は門番から、図書館に行き古い夢を読むように言われた。「門番がこの街に一人しかいないように、夢読みも一人しかいない。なぜなら夢読みには夢読みの資格が要るからだ。俺は今からその資格をあんたに与えねばならん」。門番はそう言うと、ナイフで僕の両目に夢読みのしるしをつけた。
その何日かあとの夕方、僕は図書館をたずねた。図書館には古い夢の番と、夢読みの手伝いを仕事としている女の子がいた。彼女の顔は、僕の心の中で何かと強く結びついているように思ったが、思い出すことはできなかった。
【感想】
なぜこの街に来たのかわからないとか、どこか現実離れした世界の記述をみると、夢の中の世界のようだ。まあ実際、「夢」を読むなんて言っているけど。
「ハードボイルド」のほうの世界は、ものがあって、その上に意味があって、確固たる世界のありようが形作られていたのに対して、「世界の終わり」の方の世界は、意味を残したまま、ものの形を取り外してしまったかのような、ぼんやりした感じ、何かが漠然と欠けているような不安定感がある。
この本を薦めてくれた人が、物語に図書館が出てくるよーと言っていたのだけど、「夢」を所蔵する図書館とは?「世界の終わり」で図書館は何をしてるの?と気になるところではある。